今回、筆者フォトグラファーのスミレと従姉妹でシジュウナナデザイナーのアカリがやってきたのは、青森県で一番人口の少ない村※、世界自然遺産白神山地の入口にある「西目屋村」。
迎えてくれたのは、西目屋村の薪ブランド「メヤマキ」の代表・虎澤裕大さん (以下、虎澤さん)と役場職員の竹内賢一郎さんだ。
薪を単なる燃料ではなく、地域と結びつけてブランド化したメヤマキについて、詳しく聞いていく。
※西目屋村の人口…1,265人(2020年国勢調査時点)

「最初はただ、村の木を活かしてボイラー燃料にできたらいいと思ってた」そう話す虎澤さん。最初は灯油に代わるボイラー燃料としての薪利用が目的だったが、やがて「西目屋村の木をブランド化して販売できるのでは」と方向転換。今では、“どこで作られた薪かわかる”地域ブランド「メヤマキ」としてキャンプや薪ストーブ愛好家から支持を集めている。

会社設立までは、決して順調ではなかったという。虎澤さんは元々東京在住のコンサルタントをしていて、外から来た人間が新しい事業を始めることに村民の多くが戸惑いを見せたそうだ。それでも、役場の竹内さんが前面に立って説明を続け、当時の村長さんの後押しもあり、前に進んだという。
最初の取り組みは雪を溶かす薪ボイラー事業で、2018年に本格稼働したこのシステムは道路の下に温水を通し、冬の除雪作業を大幅に軽減。およそ20億円の工事を経て、2023年には住民からの苦情がゼロに。「最初は半信半疑だったけど、やってよかった」と言う村の人たちの言葉が何よりの成果だと虎澤さんは笑った。

メヤマキは2020年に公式サイトとオンラインショップを開設。キャンプ愛好家の間では、青森産のナラやミズナラの薪、農家から仕入れたりんごの木の薪が人気だそうで、燃焼効率と香りの良さに加え、「どこで、誰が作ったか」が見える点も注目されているそうだ。
メヤマキの商品名はただ薪の種類を書くのではなく、「白神の炎(ほのお)」は広葉樹ミックス薪、「津軽の灯り(あかり)」は希少なリンゴ薪、「目屋の燈火(ともしび)」は針葉樹薪、というように、どこの薪なのかが分かるキャッチーなフレーズになっている。虎澤さんは「薪を売るだけじゃなく、メヤマキの背景を好きになってもらいたい」と話す。

メヤマキの根底にあるのは、「山を守りながら活かす」という考えだそう。放置された山を間伐し、乾燥させ、薪として再利用する。切った木は村民の所有林から買い取る仕組みで、売上が山の資産として地域に還元される。
村の人に「山を持っていてよかったと思えるようにしたい」そう語る虎澤さんの言葉どおり、今では薪割りや運搬を担う村の雇用も増え、地域内でお金が回る仕組みが生まれている。さらに、使われなくなった山をキャンプ場として開放する「山貸しサービス」も始動したそうで、予約不要で利用できる“自分たちだけの森”として人気が高まりつつあるようだ。
編集後記






ビジュアル制作会社にカメラマン兼オウンドメディア運用担当として勤務後、クックパッド株式会社にてカメラマン兼ライターとオウンドメディア運用を担当。現在、独立しビジュアル撮影をメインに活動中。

絵描きの祖父と衣装デザイナーの祖母の影響で幼少期から絵とファッションへの憧れを抱く。その後某服飾専門学校でデザインを学び首席で卒業。ファッションデザイナーの経験を得て、現在はイラストレーター、グラフィックデザイナーと、ファッション性を落とし込んだ幅広いデザイン領域で活動中。